研究者:山崎 祥他

背景

周波数が光と電波の中間領域に位置するテラヘルツ光は、可視光と比べて光子エネルギーが1000倍低く、高強度でも照射対象を破壊しない特徴があります。また、テラヘルツ光の周波数は分子間振動や格子振動に相当するため、高強度のテラヘルツ光による励起によりタンパク質の高次構造を制御できると考えられています。そこで、本研究チームでは、高強度テラヘルツ光をタンパク質に照射し、その影響を評価しました。

研究手法と成果

本研究は、福井大学遠赤外領域開発センターのジャイロトロンをテラヘルツ光照射のための光源に使用し、理研と東北大学、京都大学、福井大学の共同研究グループで実施されました。照射による影響を解析するため、生体内のタンパク質の一つであるアクチンタンパク質を対象に、アクチンが繊維形成する過程でテラヘルツ照射を行いました(下図, 文献2から引用)。

細胞内でアクチンは繊維を形成し、細胞骨格として機能することが知られています(左図)。細胞から取り出したアクチン単量体が重合し、アクチン繊維を形成する過程にテラヘルツ光を照射したところ、その繊維化が促進されることが明らかになりました(文献1)。

今後の期待

本研究では、テラヘルツ光によりアクチンが繊維化するメカニズムの解明には至りませんでした。しかし、今後解析が進めば、テラヘルツ光により細胞内のアクチンを操作することが可能になり、光による新しい生命現象の操作技術に繋がることが期待されます。

文献

  1. Shota Yamazaki, Masahiko Harata, Toshitaka Idehara, Keiji Konagaya, Ginji Yokoyama, Hiromichi Hoshina, and Yuichi Ogawa. “Actin polymerization is activated by terahertz irradiation,” Sci Rep. 2018; 8: 9990.
  2. プレスリリース “テラヘルツ光がアクチンタンパク質の繊維化を促進新しい細胞機能操作の可能性”

テラヘルツ光照射によりタンパク質の高次構造を操作する