研究者:山下 将嗣
テラヘルツ光(フォトンエネルギー4.13meV=1THz)は固体の低エネルギー励起現象を直接観測可能なエネルギーに相当します。
また、近年の高強度テラヘルツパルス光源の進展により~MV/cm級の電場で固体電子系を駆動することが可能になりつつあります。このような背景から、本研究では、テラヘルツ光を用いた固体電子系と低エネルギー励起現象の超高速多体相互作用の観測やディラック電子系のトポロジー操作による量子物性の制御技術の開発に取り組んでいます。
研究手法と成果
導電性高分子PEDOT:PSSのキャリア非局在化の観測
スピンコート法や塗布法などによって簡便に高い伝導度を実現でき、フレキシブルデバイスなどの透明電極材料として期待される導電性高分子poly(3,4-ethylenedioxythiophene):poly(4-styrensulfonate)(PEDOT:PSS)のバンド内遷移光学伝導度s(w)を観測しました。
ポリエチレングリコールなどの溶媒添加効果やpH値によって結晶性が向上し、キャリアの非局在化が生じることによってDCからテラヘルツ帯の伝導度が増大することを明らかにしました。
テラヘルツ光を用いた時間分解分光や非線形分光・イメージング技術を組み合わせることにより、導電性高分子膜内のキャリア局在化ポテンシャルの可視化技術への応用が期待されます。
図1 ポリエチレングリコール添加による結晶性の変化 | 図2 テラヘルツ帯複素光学伝導度スペクトル |
グラフェン・ディラック電子系の非平衡キャリアダイナミクス
固体中で質量0のディラック電子系が実現するグラフェンは、超高速光デバイスや熱電デバイスへの応用が期待されています。
光励起後のグラフェンでは、超高速(~数十fs)で電子・電子散乱によりバンド内緩和した電子系は、格子系よりも高温な準平衡状態(ホットキャリア)を形成します。バンド内遷移光学伝導度を観測することにより、グラフェン・デバイスのパフォーマンスを決めるホットキャリアと光学フォノンや基板の極性光学フォノン、イオン化不純物などとの多体相互作用を調べることが可能になります。
図3 光励起キャリアの緩和とホットエレクトロンの生成 | 図4 光励起後のグラフェン反射率の時間変化 |
テラヘルツ光によるディラック電子系バンドトポロジーの操作
ディラック電子系に円偏光を照射すると、時間反転対称性の破れによって、ディラック点に非自明な質量ギャップが生成し、バンド構造のトポロジーが変化することが理論的に予測されています。光パルスによってバンドのトポロジー制御が行うことが可能になれば、ダイナミカルなバンド構造の変化だけでなく、光誘起ベリー曲率効果の発現も期待され、ディラック電子系のさまざまな物性を超高速で制御する技術への展開が期待されます。
本研究では波形制御した特に高強度テラヘルツ光によるディラック電子系のトポロジー操作技術の開発に取り組んでいます。
図5 円偏光照射によるディラック電子系のトポロジー操作 |