研究者:吉峯 功
背景
テラヘルツ波は,その透過性や分子構造・結晶構造に対応する指紋スペクトルの存在から,分光イメージングへの応用が盛んです.広範囲のワンショット測定やキラリティを利用した応力測定などへの応用に向け,高強度なテラヘルツ波源や偏光の制御が求められています.また,近年高強度なテラヘルツ波源が開発されたことによりテラヘルツ波を用いた固体物性の発現や制御といった研究が盛んになっており,電子スピンや分子間結合の集団励起モード(マグノン,フォノン)はテラヘルツオーダーの共鳴周波数を持つことから,テラヘルツ波を用いた共鳴制御ができる可能性があります.このような技術の発展に向けて,高強度かつ周波数や偏光を制御可能なテラヘルツ光源を開発しています.
インパルシブな高強度テラヘルツ波の発生手段としては,非線形光学効果の1つである光整流を用いた光パルスの波長変換が有力です.特に,4-N,N-Dimethylamino-4′-N’-methylstilbazolium tosylate (DAST)や,2-(3-(4-Hydroxystyryl)-5,5-dimethylcyclohex-2-enylidene)malononitrile (OH1)に代表される有機非線形光学結晶を用いた場合,入射パルスエネルギーの数%に及ぶ非常に効率的なテラヘルツ波パルスの発生が報告されています.また,光整流の原理から,励起光の時間波形に変調を加えることで発生するテラヘルツ波の周波数や電場方向を制御することが可能であり,特に広帯域な光学素子の作製が難しいテラヘルツ帯における波形や電場方向を制御されたパルス発生手段としても期待されます.
研究手法
有機非線形結晶DASTに光パルスを照射し,高強度のテラヘルツ波パルスを発生させました.光整流は2次の非線形光学効果であることから理論上は発生するテラヘルツ波パルスのエネルギーが入射光エネルギーの2乗に比例しますが,実際は様々な光学的効果が共存するためその通りにはなりません.結晶内で発生した光学効果とその寄与を,理論計算を用いて分析しました.またそこから得られた結晶内でのポンプ光とテラヘルツ光の伝播や相互変換の物理モデルを用い,励起光にどのような変調を加えたときどのようなテラヘルツ光が得られるかのシミュレーションを行い,結晶の種類や厚さなど最適な発生条件についても考察しました.これらの成果を用い,励起光波形により発生するテラヘルツ波の周波数や偏光を制御可能なシステムの構築を行っています.